横浜地方裁判所 昭和57年(ヨ)1605号
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別紙当事者目録記載のとおり
主文
本件仮処分申請をいずれも却下する。
申請費用は申請人らの負担とする。
理由
第一当事者の申立て
(申請人ら)
申請人らが被申請人らの従業員たる地位にあることを仮に定める。
被申請人らは申請人らに対し、昭和五七年一二月一二日以降本案判決確定に至るまで別紙請求債権目録(略)記載の金員を仮に支払え。
申請費用は被申請人の負担とする。
(被申請人ら)
主文同旨
第二当裁判所の判断
一 被申請人東芝アンペックス株式会社(以下「会社」という。)は肩書地(略)に本社及び工場を有し、磁気記録再生装置及びその応用装置などを製造販売する株式会社であり、被申請人東京芝浦電気株式会社(以下「東芝」という。)は肩書地(略)に本社を有し、電気機械器具製造等を目的とする株式会社であること、会社が昭和五七年一二月一一日付で辻囿美喜子、佐藤文子を除く申請人らを解雇する意思表示をなしたことは当事者間に争いがなく、申請人らがいずれも別紙申請人目録(略)入社欄記載の日に会社に入社したものであることは会社と申請人ら間に争いがない。また、右解雇の意思表示(以下「本件解雇」という。)がそのころ申請人らに到達したことは審尋の結果によって一応認められる。
二 申請人らと東芝間に雇用契約が締結され、あるいはそれと同様の関係があったと一応認めるに足りる疎明はない。
三 そこで本件解雇の効力について検討する。
1 本件疎明及び審尋の結果によれば次の事実が一応認められる。
(一) 会社は昭和三九年に東芝と米国に本社があるアンペックスコーポレーション(以下「アンペックス」という。)との合弁企業として東芝五一パーセント、アンペックス四九パーセントの出資比率で設立され、前記のとおり肩書地に本社を有し昭和五七年三月三一日当時資本金五億円、従業員三七五名を擁する株式会社であり、主な業務は放送用ビデオテープレコーダー(VTR)及び電子計算機用磁気記憶装置(テープメモリー、略称TM)の製造販売であり、VTRは業務用としてNHK、民間放送局、プロダクション等をTMは電子計算機メーカー、大学、試験研究所等をそれぞれ取引先として納入していた。
(二) 会社にはいずれも会社従業員で組織される東芝アンペックス労働組合(以下「組合」という。)と新東芝アンペックス労働組合(以下「新組合」という。)とがあり、申請人らはいずれも組合の組合員である。
(三) 被申請人の経営は昭和四八年のいわゆるオイルショックを契機として急激に悪化したが、合理化策が一応の成功を納めて昭和五二年ないし昭和五四年には相当な回復をみせた。
(四) しかしながら、その後、VTR部門については新機種の開発の遅れにより同業他社にシェアを奪われたこと、それに伴う低採算受注、会社の手掛けている業務用VTRの主なる受注先である放送業界の業績不振などから、TM部門については電算機用記憶装置(メモリー)のディスクへの移行による市場規模の縮小とそれに伴う同業他社との低価格競争などからいずれも大巾な減益となり、昭和五六会計年度(同年四月一日から昭和五七年三月三一日まで)には資本金を上回る五億六七五八万二七七六円の経常損失を計上した。なお昭和五六年九月時点での推計によれば、VTR市場における総需要は昭和五六年度の三二五台に対して逐時逓減し、昭和六〇年度には四六台にまで落ち込むことが予想され、この限られた需要を同業他社と分けあう会社としては、他に主要な事業としてTM事業しか持たないだけに一層深刻なものとして受け取られた。
(五) かかる状況打開のため会社は昭和五六年一〇月に再建のための三か年計画を立案して東芝及びアンペックスと協議し、また昭和五七年二月にはアンペックスが同社独自の再建案を策定して会社及び東芝の双方に示したが、右案は会社をVTR専門会社としTM事業は東芝へ移管する、右移管によって生ずる余剰人員は全て東芝が責任を持って救済する、地方営業所の一部閉鎖等の合理化を行う等を内容とするもので、東芝にのみ負担が大きく、とうてい同社には受入れ難いものであった。
そこで三社はなおも再建の方策をめぐって検討を続けることにしたが、この間もVTRの販売の急激な落込み、会社がアンペックス向輸出用に開発し、年間二〇〇〇台の需要見込みを立て昭和五六年後半から出荷を始めた電子計算機用磁気記憶装置TMSの受注見通しが全く立たないことなどにより会社の業績は悪化の一途をたどり、昭和五七年四月一日から同年九月三〇日までの上期だけで前会計年度のそれに近い経常損失を計上することが確実な状況となった。
(六) ここにおいて会社設立以来の経営の二本柱ともいうべきVTR及びTM事業の行詰りは明確なものとなり、例え現在の財務内容は未だ債務超過になっていないといっても、会社がこのまま推移すれば早晩倒産に至ることも予想され、一方現段階であれば従業員の雇用を確保しつつ東芝及びアンペックスの両株主による新たな事業展開も可能と見込まれた。
そのため東芝とアンペックスとの両者は同年七月ころから右のような方向での検討を重ねた末、同年八月二四日、合弁事業の解消とそれに伴うVTR、TM各事業の各社への引上げ(VTR事業をアンペックスに、TM事業を東芝に)、会社の解散を合意し、右合意に伴い従業員を解雇せざるを得ないことになるが、その雇用の場を確保するため東芝本社及び各工場に管理職約六〇名分、一般従業員約三一〇名分、アンペックスの子会社であるアンペックスジャパンにVTR事業部門の人員として約五〇名分の各採用枠を確保した。
(七) そして会社は、同年九月九日、組合及び新組合に対し、労使協議会の席上、会社が同月三〇日解散する予定であること、従業員は同年一〇月三一日付をもって解雇する予定であること、退職金は会社都合退職金を支給し、再就職について(六)のとおり斡旋することを説明した。
(八) 会社の右説明に対し、新組合とはその後の団体交渉(以下「団交」という。)を経て同年一〇月二五日合意が成立し、協定が締結され、新組合所属の約一五〇名の従業員は全員会社を退職し、そのうち再就職を希望する者の大半が東芝及びアンペックスジャパンに採用された。
(九) 一方会社と組合との団交は、会社からは佐々木彪比古社長(後に清算人)を始めとして各取締役、総務部長、総務部次長、総務課長らが、組合からは石原均委員長を始めとして両副委員長、書記長、各執行委員らがほぼ一貫して出席したうえ次のとおり開催された。
(1) 昭和五七年九月一〇日
一三時から一五時まで
(2) 同月一三日
一〇時から一二時三〇分まで
(3) 同月一六日
九時から一〇時三五分まで
(4) 同月一七日
一三時から一五時まで
(5) 同月二〇日
一〇時から一二時五分まで
(6) 同月二二日
一三時から一五時まで
(7) 同月二七日
一三時から一六時一〇分まで
(8) 同月二九日から三〇日
一五時から三〇日五時四五分まで
(9) 同年一〇月四日
一三時三〇分から一六時四〇分まで
(10) 同月七日
一〇時から一一時五五分まで
(11) 同月一五日
一三時から一五時まで
(12) 同月一九日
一〇時から一二時一〇分まで
(13) 同月二一日
一〇時から一二時一〇分まで
(14) 同月二六日
一三時から一四時四五分まで
(15) 同月二八日
一三時から一五時まで
(16) 同年一一月六日
一〇時から一二時一〇分まで
(17) 同月一一日
一〇時から一二時まで
(18) 同月二二日から二三日
一五時三〇分から二三日一〇時三〇分まで
(19) 同月二六日
一五時から一七時まで
(20) 同年一二月一日
一三時から一五時一〇分まで
(一〇) 右団交の(1)ないし(8)において、会社は経営の背景事情、今まで行ってきた経営努力等について経営資料を開示したうえで組合に説明し理解を求めたが、組合は経営陣の退陣を要求し、特に(8)の団交では三〇日に予定された解散決議の中止を要求して大勢の組合員が団交会場に乱入し机をたたくなどした結果会社は遂に徹夜の団交を余儀なくされた。
(一一) かかる状況に鑑み、会社の株主は既定方針どおり同年九月三〇日解散決議をなした。
(一二) 右解散決議後の(9)の団交においては、会社と組合との間で、組合との話し合中は会社は組合員の解雇や機材搬出を行わない旨の両当事者の代表者による記名捺印のなされた文書による合意(以下「議事録確認」という。)がなされたものの、その後(17)の団交に至るまで会社と組合との話合はほとんど進展せず、組合はあくまでも会社の再開を要求し続けた。その後同年一一月一五日には佐々木清算人と組合の都筑建書記長とがホテルで個人的に会い、その際佐々木清算人が「組合が事業をしようというのであれば機材、資金、販売ルートについて援助することを考慮する」旨表明したが、右両者の十分な意思疎通を欠いた結果右の話も実を結ぶことなく終り、かえってその直後の(18)の団交では組合員が会社側交渉員に対して有形力を行使し、翌朝までの団交を余儀なくさせ、また(19)の団交で組合から表明された再建構想も会社の再開を前提とし、仕事は東芝及びアンペックスが少なくとも一五年間は責任をもって供給すること等を内容とする非現実的なものに止まった。
(一三) そのため会社は最早団交を打切り申請人らを解雇するのもやむを得ないと考えるに至り、(20)の団交の席上団交打切りを通告したうえ前記のとおり本件解雇に及んだ。
2 本件解雇の効力
申請人らは本件解雇が<1>不当労働行為(労働組合法第七条第一号、第三号)に該当する、<2>組合と会社間に締結された昭和五一年一一月二五日付協定書及び了解書に基づく事前協議約款(労働協約)ないしは同趣旨の慣行に違反する、<3>昭和五七年一〇月四日の議事録確認に違反する、<4>労働基準法第二〇条に違反する、<5>解雇権の濫用にあたるとして無効である旨主張する。
(一) 不当労働行為について
1の事実によると、本件解雇の真の理由は、会社の経営内容が悪化し将来の改善の見込みがなく、会社にとって企業経営を継続していくことは極めて困難と見込まれたことにあったものと一応認められ、不当労働行為の意図の存在をうかがわせる疎明はないといわねばならない。
(二) 事前協議約款(慣行)違反について
本件疎明によれば、申請人らの主張する労働協約は昭和五三年一〇月三一日の経過をもって失効したものと一応認められ、かつ1の事実によれば本件解雇は十分な事前の協議を尽したうえでなされたものといえるからたとえ同趣旨の慣行が存在していたとしても会社にはこの点の落度はないといわざるを得ない。
(三) 議事録確認違反について
1(三)のとおり会社は昭和五七年一〇月四日の団交において組合との話合い中は組合員の解雇や機材搬出を行わない旨を内容とする議事録確認をしたことが一応認められ、右確認は労働協約としての実質を持つものと解される。
しかしながら一方右確認は同年九月三〇日の会社解散決議がなされた後に締結されたものであるのであり、この事実と1(五)(六)の会社の経営状態とを合せて考えると、右確認はその後十分な回数、期間、内容の団交が尽された後になされた解雇の意思表示についてまでも何らかの影響を及ぼす趣旨の協約であるとは解し難い。
しかるところ、会社と組合との間においては1(九)のとおり右確認締結後十分な回数、期間、内容の団交が行われたのであるから、本件解雇時点において右確認が本件解雇に何らかの影響を及ぼすものと認めるに由ない。
(四) 労働基準法第二〇条違反について
本件疎明によれば、被申請人は本件解雇に当り、申請人らに対し解雇予告手当金を提供した事実が一応認められるので、申請人らの右主張は失当である。
(五) 解雇権の濫用について
本来会社の解散自体は職業選択の自由、経済活動の自由の一環として株主の自由に委ねられているところであり、右解散に伴う解雇も原則的には有効とされるべきである。そして、1のとおり本件解雇は真に経営の必要上からなされた有効な会社解散に伴うものであること、会社が本件解雇に当り申請人らに再就職の斡旋を申し出たこと、右再就職先の労働条件もまず満足すべき水準を満たしていること(その事実は本件疎明によって一応認められる。)、解雇提案の後前記議事録確認は締結されたものの、その後十分な回数、期間、内容の団交が重ねられたこと等本件解雇に至った事情を検討すると、本件解雇に濫用の廉は認められず、誠にやむを得なかったものといえ、他に本件解雇が解雇権の濫用に当るものであることをうかがわせる疎明はない。
3 したがって、本件解雇が無効であるとの疎明はないものといわざるを得ない。
四 結論
よって申請人らの本件仮処分申請はその被保全権利につき疎明がなく(なお辻囿美喜子、佐藤文子については被申請人が雇用契約関係の存在を認めており、必要性につき疎明がない。)右疎明に代えて担保を供させるのも相当でないのでいずれも却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 嘉村孝)
当事者目録
申請人 別紙申請人目録(略)記載のとおり(石原均ほか五九名―編注)
右代理人弁護士 鵜飼良昭
同 千葉景子
同 福田護
同 宇野峰雪
同 柿内義明
同 野村和造
被申請人 東芝アンペックス株式会社
右代表者代表清算人 佐々木彪比古
被申請人 東京芝浦電気株式会社
右代表者代表取締役 佐波正一
右被申請人ら代理人弁護士 渡邊修
同 吉沢貞男
同 山西克彦
同 冨田武夫